アイラブユー だ も んで。 アイラブユーからはじめよう

アイ・ファイン、サンキュー、ラブ・ユー

アイラブユー だ も んで

長い足を組み替える。 ため息をつく。 デスクに肘をつき、再びため息。 「こひー いれる すてぃーぶんさん まつ です」 パタパタと給湯室へ入って行く後姿を見て、息と一緒に出したはずの重い気持ちが再びせり上がってくる。 どうにかしてレオを彼氏と別れさせなければ。 ありとあらゆる問題をデスクに山積みにしたまま、スティーブンは頭を悩ませた。 ピラっと一枚紙を取り、報告書に目を通す。 〈なんのために どんなことをしているのか これによって起こりうる問題は何か 今後の対策は〉 汚い字で書かれている。 恐らくザップのものだろう。 舌打ちをして、トントン ペンで机を鳴らした。 〈なんのために〉 レオの彼氏。 恐らくクズ野郎だ。 ザップと同等ぐらいのクズかもしれない。 なにせ、レオをあんな…襲ってくださいと言わんばかりの恰好で街へ繰り出させる男だ。 〈どんなことをすればいい〉 別れさせる。 「消すか…」 フと一番楽な選択肢が浮かんできて なぜか昼間に見た料理番組の曲が頭の中で流れ始めた。 1まず初めにレオの彼氏を消す。 跡形もなく。 2彼から連絡が来なくなり、レオはふられた形になる。 3優しいレオは泣くかもしれないが、自分が傍にいれば特に問題ない。 できあがり…。 バリっ! スティーブンは汚い報告書を半分ほど破いた。 「ないないない…俺は危ないやつか…アホなのか…」 一人のり突っ込みしてしまったことにもズンと落ち込む。 「これは書き直させるか」 ペっとザップの報告書を横へのけ、パソコンのデータに目を通す。 そもそもなんのため、あたりから間違っている。 レオの彼氏がクズなんてただの予測にすぎない。 彼女は人を見る目はあると思う。 しかしあの言語能力で… 「まさか。 相手は日本語をしゃべれるやつか…」 だったら勝ち目はあるのか。 いやちょっとまて 勝ち目ってなんだ。 なぜ勝つ必要がある。 相手はテロリストか?麻薬の密売人か?BBか? 違う。 ただのレオの彼… ボキっ ペンが折れた。 なんのため レオに彼氏がいたら困る。 なぜ困る。 腹が立つからだ。 なぜ ペット レオの文字がどうにも頭の中で邪魔をする。 スター ペット スター どっちだ。 どっちでも納得いかない。 じゃあなにでいたい。 彼女にとって自分は何でありたい? 彼氏を敵と思うということは彼氏になりたいのか? レオを彼女に…恋人にしたい? スティーブンは今まで抱いた女性や、デートをした女性たちを思い浮かべた。 アレと同じに… 恋人。 そういう定義に当てはめていた存在はたくさんいるが…どれもピンとこない。 それならまだペットのほうが幾分かましにさえ思える。 なにでいたいか…わからない。 なにで…いたい…か コト いつの間にか机に頬を付けていたスティーブンの目の前に、カップが置かれる。 目線を上げると ニッコリ笑顔のレオと目が合った。 「おまたせ いたしますた どーぞ」 フっと自然と息が漏れ、下から手を伸ばしてレオの柔らかい髪に指を絡ませるスティーブン。 「居たい…傍に…一番傍…どんなかたちでもいい…なんでもいい…誰よりも傍に居たい…レオの傍に…一生…」 彼女を前にした途端 何にもあてはめられない気持ちがあふれ出た。 これじゃまるで神にでも懇願しているようだ…。 「すてぃーぶんさん。 もー いちど おねげします そば いたい?」 案の定首を傾げるレオ。 髪を触る手を、スルっと首元へ持っていくと…一瞬目を見開き しかし手を払いのけもしない、恥ずかしがりもしない。 欲望を先行させすぎた結果…彼女は慣れてしまった。 これならいつまでも彼女の傍にいられる。 そう考えていたような…それとも何も考えずやってしまったような…。 でも違う もう無理かもしれない。 そんな第三者が割りは入って来た途端すべてが崩れ去った。 レオが手を払いのけなくても 自分自身が制御できているから成り立っている関係だった。 もう…無理だ 恋人にしてきたように…いや…それだけじゃもうすまないくらいのことをレオに… 何かわからないものをぶつけて 壊すかもしれない。 それは嫌だ。 絶対ない。 ありえない。 だったらレオは彼氏と幸せになればいい。 ギリっ 「っ…すてぃーぶんさん! ないない! つめ いたし!」 ハっとなって立ち上がると、レオの首にひっかき傷ができていた。 「すまないっ…レオ…」 肩を落として謝ると、レオは首を抑え コクっと頷いた。 「わざと ちがう でした こっち こそ すむませぬ かんちぎゃい…。 えと…まえから…いう べく こと です。 すてぃーぶんさん と ざっぷさん いたずら おおい けもの ガウガウ みたい ぼく しんぞー ふぜん なる こまる へらす」 ガウガウ言いながら手をネコのように丸め、両腕を上げるレオ。 胸をとんとんと叩いて、眉をひそめ、ムっと頬を膨らませるレオ。 何が言いたいのかイマイチわからないが スティーブンは長い長い溜息をつきながら、レオの頭をナデナデした。 「なんでこんな可愛いものを他の奴にやらなきゃいけないんだ。 それこそアホらしい」 ナデナデし続けるスティーブン。 撫でるくらいいいだろう…と心の中で言い分けを繰り返す。 「わざと!すてぃーぶんさん!こりは わざと! いま こまる いうた ぼく!」 レオが小さく抵抗してきたので、腕を引っ張ってレオの頭を胸に押し付けてまた撫ぜ続ける。 「ザップの名前と俺の名前を並べて出すなよレオ…今ほんとうに危なかった…可愛さがなければ頭じゃないところに手を伸ばしてたぞ…聞いてるか?」 『ああ…ダメだなコレまったく通じない。 友達に聞いたら外国人でもそんなに触らせるのは変だって言うから。 この人たち僕のこと虐めて楽しんでるのか?もしかしてコミュニケーションじゃなく… いやでもなあザップさんはともかくスティーブンさんにそんな趣味はないだろうし、ちゃんとしてる人だもんな…』 「なんだって?」 レオが長い日本語の独り言をブツブツと言い 気になって問いかけたが、無視されてしまった。 独り言中はたまにあることだが、結構つらい。 スティーブンはレオの頭から手を離して、ストンっと椅子に座りなおした。 目線が近くなり、髪が乱れたレオが首を傾げる。 「レオ」 名前を呼んで、じーっと真顔で見つめると、レオは目線を右へ左へやり… 唇を噛みしめて見つめ返してくる。 必死にこっちの言わんとしていることを探ろうとしている目だ。 「すてぃーぶんさん?なにです?」 一生懸命。 妹のため。 言葉もわからないような国に一人で来た…ただの女の子。 誰にでも優しく面倒見がいい。 弱くて…誰よりも強い気持ちを持った ただの… 特別な女の子。 スティーブンはニッコリと笑い つられたようにヘラリと笑うレオの左手薬指を掴む。 「うーん…取れない呪いがかかった指輪でもはめとけば誰もよってこないか…」 思考がふりだしに戻りかけて スティーブンは額を抑えて足元を見た。 「いやいやない…危ない…危ないやつすぎる…そもそもがおかしいだろなんで指…」 言った途端 どんどん繋がっていく世の中の常識と自らの思考回路。 恋人ではおさまらない 一生傍にいたい 指を呪いたいほど なにで? 指輪で…… 「すてぃーぶんさん。 みみ あかいろ ねつ? おちかれしゃまです? おやすむ?」 上から落ちてくるレオの声に情けなさが膨れ上がり スティーブンは ガンっ! 『わ!!』 机に頭を打ち付けた。 『なにやってるんすか!眠気覚ましなら他にも方法あるでしょうよ!』 騒ぎながらスティーブンの額をさするレオ。 ああ 頼むから彼氏とは別れてくれレオナルド。 お願いだ。 そうすれば自分は…こんなしょうもない世界の約束事に手を出さなくても 勝手に君の一番近くにいることが出来るんだ。 周りを認めさせるためだけのバカみたいな証なんて本来必要ない。 ただ一番傍に居たいだけで…なんでこんな…アホな結末に辿り着く。 世の女性を敵にまわしそうなことを考えるスティーブン。 そんなことはつゆ知らず、レオはスティーブンの額に顔を近づけ 『腫れてはいないか…血も出てないよな』 鼻先にレオの息がかかる。 ああ…ダメだ…。 このままではレオの世界に引っ張られていってしまう。 自分のペースでしか女性を相手にしたことはないのに、言葉が通じないからかすべてが後手後手に回ってしまって 目を離せない。 手も離せない。 身動きが出来ない。 ヘタすれば息も出来ないくらいにレオの一挙一動に揺り動かされている自分がいる。 「レオ。 離れてくれ。 キスしそうだ……」 首を傾げるレオ。 「君は彼氏がいるんだろ?なのに君が可愛す…無防備すぎて頭がおかしくなってきた。 もう俺が悪かったから…不用意に触らないから…君もそうしてくれないか」 レオは至近距離のままスティーブンの目を見て… 言われた言葉を頭の中で訳しているのか、眉間に皺をよせている。 スティーブンはため息を飲み込み レオの鼻先に ぺふっ 高い鼻を触れさせた。 『おおおわっ!』 真っ赤になって飛びのくレオ。 鼻を手で押さえ、わなわな震えている。 「通じたか?離れないととどうなるか…わかったか?…君は…好きなやつがいるんだろ」 体の芯が冷たくなっていく。 辛いのか…寂しいのか…なんだかわからない。 「幸せになれ…レオ」 泡が弾けるほどの小さな声で言い、無理やり書類に目を戻すスティーブン。 結局はこれが一番いい。 かなり危ないところまで思考がぶっ飛んだが 自分にはやるべきこともあるし、レオにも何よりも優先すべきことがある。 それに…愛する者がいる普通の少女にぶつける気持ちとしては 自分のは適切ではない。 歪みまくっている。 折れたペンをゴミ箱へほり、新しいペンを引き出しから出すと 『だ…なん…!キ…スしようとし…ではないよなっ…ないない!…あ…あれか!いつものあれ…いやでも友達が…でも…』 レオの独り言が耳に入った。 「レオ…今日はもうあがれ…」 『あああ…もう面倒くさいな。 …でも休んでほしい…』 聞いてない。 また独り言をいい脱力するレオ。 ほっとけば帰るか。 スティーブンはペラっと一枚書類を抜き取って手元へ置き… 瞬間。 「はぁ…すてぃーぶんさん。 おやすむなさい」 小さな手で顎をグイっと持ち上げられ 「っ!?」 スティーブンの頬に、触れるだけのキスをするレオ。 ミシっ…バキっ ペンが手の中で折れた。 「…っ…レ…オ………」 自ら仕込んだこと…のはずが 固まるスティーブン。 キスされたくなくば離れろ。 というアクションだったはずなのに キスされた。 心臓が痛い。 頬が熱い。 どうすれば なんで 違う ダメだろ 出した答えが… ガラガラと崩れ去って行く。 そんな動揺するスティーブンを置いて ソファへと戻ったレオは パンパンっ! 自らの太ももを豪快に叩いて言った。 「こい すてぃーぶんさん ねるです」 半眼で不機嫌そうな顔。 クソっ! 愛おしすぎて辛い! 爆発しろ!彼氏! 今すぐこの思考回路ごと爆発してなくなれ! スティーブンは死ぬほど恰好悪いことを考えながら 立ち上がった。 [newpage] 『ちょっ!その人バイト先の人ですよ!ザップさん何いきなり斬ろうとしてんですか!バカなんですか!!』 レオと歩いていると、見知らぬ男が話しかけてきた から ザップはとりあえず 斬りつけた。 「ひいいい!」 ギリギリでレオが間に入り、刃を止める。 「なんだ彼氏じゃねーのか」 悲鳴を上げながら逃げていった男の後ろ姿を見て、肩を落とすザップ。 バシっ! 日本語で怒鳴りながら ザップの足を蹴っ飛ばすレオ。 まったく痛くはないが 腹が立つ。 「だから何度も彼氏に会わせろっつてんだろ?わかんねーかな」 「なに このいぜん から かれ あわせろ だれ? わからん」 レオはプンプン怒りながら答える。 通じないとは不便なことだ。 今更ながら思い、ザップは頭をかいた。 レオに恋人がいる。 そう聞いて 殺そう。 本能的にそういうところに辿り着いた。 なぜか… 簡単だ。 そんなやつはこの世界に必要ない。 レオの隣を歩くのも…レオに触れるのも…自分だけでいい…とかそんなんじゃない。 それは違う。 レオが笑顔でいるなら…いい。 我慢する。 血反吐はいても…我慢する。 だが 恋人。 この肩書きはよくない。 泣かれる。 頬を思いっきり殴られる。 刺される。 自分が経験してきたことだ。 恋や愛が絡むと人と人の関係はいっきに危険なものへ変わる。 そんなものをレオの周りに存在させるなんてありえない。 レオを消すかもしれないくせに 自分より弱い男など …死ねばいい。 殺気を出しながらレオを見ると 青い瞳をさらけ出して、怯えた顔をされた。 ああ 触れたい。 腕の中に閉じ込めて誰も見えないようにしてやりたい。 でもそんなことをしたら自分も彼女を見ることができなくなる。 だからしない。 なのに触れたい。 でもそうやって…すべての欲求に負けて噛みついた日 彼女は逃げ出して彼氏のところへ行ったのだ。 悔しい苦しい…。 あんな恰好までして…。 「ざっぷさん…けった いたいかった?そんなに?」 黙りつづけていると、何か勘違いしたレオがしゃがんで脛を撫でてきた。 こそばゆい。 脛だけじゃない。 ずっとずっとこそばゆいのだ。 レオに抱き付いてランブレッタに乗っているときも レオのベッドで眠るときも。 撫でられるようにこそばゆい想いが ザップの衝動に細い鎖をかける。 これがなければ 彼女を泣かせるのは自分かもしれない。 彼女をこの世から消してしまうのは…自分なのかもしれない…。 だからこの気持ちをなんとかつなげておかなくてはいけないのだ。 弾け飛ばないように…少しづつ発散して 彼女を守らなければいけない。 世界中の奴らから…彼氏から…自分から…氷から…。 ザップはしゃがんでいるレオの腕を掴んで立たせ 「怒ってねーよ」 目を細めて、レオの頭を撫でた。 「おこて ない? ぼくは まだ おこってる です」 プーっと頬を膨らませるレオ。 ああ…でも問題がある。 ザップは膨らんだ頬をプニプニつまみながら考えた。 レオの彼を殺したら レオはとても怒るだろう。 いや…怒るどころではないかもしれない。 嫌われる…だけじゃない。 悲しむ レオが 笑わなくなる。 本末転倒だ。 じゃあどうする。 殺す…消す。 記憶を…。 …ないな…レオに何が起こるかわからない。 俺にしとけばいいのにな。 フっと沸き上がる心の声。 どういうことだ。 ザップはレオの頬をグニグニと伸ばした。 『やめろっ!痛いって!ザップひゃん!!握力マジで強いなこの人!!いたたたたっ!蹴ってごめんなさい!』 いや…でも俺はレオを決して刺さない。 だから恋人にはならない。 レオを傷つけることはしない。 だから恋人にはなれない。 そうしないと…俺は俺を殺さなければいけない。 それでも俺にしとけばいいじゃねーか。 止まらない声。 「なあ。 俺にしろよ」 ポロっと発言までしていた。 頬を解放され、涙目のレオが肩を怒らせる 「なん こと です?」 なんのことってか なんの 俺にしろ 傍に置くなら 一番にするなら 死ぬまで一緒にいるなら 自分を選べ…。 おまえの意志で…選んでくれ。 でなきゃ意味がない。 なんだかよくわからなくなってきた、矛盾だらけだ。 問題もすり替わっている気がする。 そもそも 「なんで俺がおまえに頼まなきゃいけねーんだよ」 モジャっとした陰毛頭をワシ掴みにすると、レオは目を細めて見返してきた。 なんだこの人 という顔をしている。 どうせ傷つけるなら自分が… 耐えられる自信はなくても…それでも…他の誰かにやられるくらいなら… 守りたいのに。 ヒーローでいたいのに。 所詮はペットということか。 願うしかできないなんて…ソニックと同じポジションでいるしかないのか。 ここから脱却する素晴らしい方法はないのか。 レオに恋人を作らせず、自分を一番に…傍に置く…それも永遠に…。 何かあったはずだ。 何か…。 考えてもまったく思い出せないのに、それが自分には合わないことだというのはわかる。 だいたい恋人を作らせずって、すでにいるのに。 レオが選んだ相手が。 俺以外の誰かが…。 その誰かがいるから こいつは今笑ってるのかもしれない。 俺の傍でヘラヘラ出来るのかもしれない。 このままでいるのがコイツにとっては一番いい。 それもわかる。 殺してやりたいと思っているのは自分だけ 勝手に彼女のためだとか危険だからとか考えているのも自分だけ。 こんなにも何もかもが一方通行だなんて…何か違う気もするが、いわゆる片思いをしてるなんて… 愛人が聞いたら大笑いするか信じないかのどちらかだろう。 それが自分。 今までの自分。 失くす…レオの前にいると…いろんなものを… 手に入れたくて失くしている。 この鎖もいつか失くしそうだ…切れて落ちて失くなる…。 いや…もう切れかけている…か それとも殺すなんて考えて、近付いてきた男に切りかかった時点で もう切れたのか? 今回は立ちはだかる彼女を前に寸止めできたが 次は… 力関係が圧倒的な戦いだ。 自分の想いが強すぎて…無防備な彼女をいつか…。 ヒーローが聞いてあきれる。 「なあレオ。 お前俺のことどう思う?なんだと思ってる?」 ザップは再び聞いてみた。 彼女の前で、彼女に害のないものを切ろうとした自分を…なんだと思うか。 少なくとももうヒーローではないだろう。 「え…と…ちょい まつ」 レオは携帯を出して調べ始めた。 ザップが黙って待つ姿勢になると、何か察したようで 電子辞書まで開く。 怒ったり怯えたりしているくせに きちんと答えようとしてくれている。 人に対して真面目で一生懸命…こっちが不真面目に対応しまくっても… 必ず最後は向き合ってくれる。 「俺 どう 思う…ふんふん」 『俺を…なに…どう思うか?…ん?なんだこれあってる?なんかこないだもこんなこと聞かれたような…でも本人だし違うか。 連想じゃないよな。 他人からどう思われてるか聞きたいって…何か不安ってこと?彼女か友達と喧嘩したとかかな。 さっきからイラついてるし。 てかこの人…彼女いっぱいいるけど友達いるのか?…いなくないか?…僕に相談するくらいだし…』 ブツブツ独り言を言いつつ 顔を上げるレオ。 出たか。 一体なんだ。 俺はお前にとってなんだ。 どの場所にいる存在だ?どこに入ればいい?ずっとずっと遠く? いっそのこと手の届かない…目にも映らない場所にいればいいか? 自分ではない誰かが現れて勝手に脳内でしゃべっているようだった。 女に対してネガティブになることなんて初めてだ。 頭痛がしてくる。 やっぱり聞かなければよかった。 「レオ…やっぱ今の質問な…」 「ざっぷさん いつも いっしょ ぼくと そばいる なかよし だから げんきを…」 グワっ! 「おお!!?」 ザップはレオを抱き上げた。 いつも一緒 確かに今そう言った。 これはたぶんちゃんと通じてない。 でもそう言った。 レオの言葉が鼓膜を突き破って脳内のいろんなザップを攻撃して倒した。 一発KOされていた。 殺したくない。 傷つけたくもない。 大切にしてやりたい。 その思いは…ただ彼氏がいる…レオに一番の存在がいるというだけで 刃に変わる脆いものなのか。 新しいザップが脳内で問いかけてくる。 違うだろ。 耐えろ…耐え抜け…。 「ざっぷさんと ぼく いちばん とも…」 ギューっと抱きしめた。 最期まで聞かずに。 「いやおかしいだろ。 なんで俺がおまえのためにいろいろ譲歩しなきゃいけねーんだよ。 一番なんだとかてめぇビッチな発言しやがって…ああ…だめだ頭悪いこと考えてた。 ねえわ…マジでねえ…。 いや…俺も悪いがレオも悪いんだぞ」 腕の中でジタバタするレオ。 ああ…行かせたくない。 どこにも。 やはり自分を選べとか考えている。 クソっ レオの彼氏なんてこの世界から消え去れ そしてこんなチマチマしたことを考える脳みそなんて 細切れになって海の藻屑となれ! ザップはそうやって少し前に考えていたことをすべて忘れ去る方向で レオをそっと地面に降ろした。 [newpage] 二人がおかしい。 レオは事務所のソファで自作おにぎりを食べながら頭を捻った。 もともと自分の常識の中で、二人はおかしい人に分類されていたけど そこからさらにおかしくなった。 『なんか目も合わせてくれない日が続いたり…思い出したように張り付いて来たり…緩急つけてくる…』 おかげで レオは二人が気になって気になって…仕方がない。 そういうお国の人だから。 と割り切ろうとして頑張っていたのに 友人に電話してみようか。 お金かかるけど…相談を…。 レオはスクっと立ち上がり、目の前で食べているザップに声をかけてみた。 この間の事務所脱出事件以来、何も言わずに事務所を出ると 二人…スティーブンとザップが必ずついてきてしまうからだ。 「ざっぷさん。 ぼく ともだち でんわ こくさい そとでる」 「おお」 今日は目を合わせない日なのか、気のない返事が一つ。 少し寂しい。 レオは立ち上がってデスクへ行き 「くらうすさん、すてぃーぶんさん。 ぼく でんわ こくさい そとでる OKです?」 身振り手振りしながら言うと クラウスも身振り手振りでOKサインをしてきた。 大きな体でやるゼスチャーがなんだか可愛らしくて、レオはフっと笑う。 「今日はそのまま帰ってもいいぞレオ」 パソコンから顔を上げず、早口で言われた。 普段から聞く言葉なので、なんとなく上がってもいいということだとは思うが 寂しい…少しだけど。 いやいやなんか贅沢なこと考えているよ自分。 ただの日常会話に色をつけてくれとか考えてるなんて…。 でもな…毎日ああだったのが急になくなるって…嫌われるようなことしたかな。 だけど次の日になると戻ってたりもするし。 わけがわからない。 [newpage] 『で?レオ子はどっちがいいのよ』 通信画面越しに友達が言った。 グチグチした悩み事を黙って聞いてくれていると思ったら なんだか見当違いな返答だ。 『どっちって?何が?僕の話聞いてた?』 ムっとしながら言うと、友達はバカにする感じのため息をはいた。 『べったりしてほしいのか、普通にサラっとした付き合いで居てほしいのか、どっちがいいの?って聞いたの』 『……え。 どういうこと…』 『だってそういう相談に聞こえたけど?』 言われて…数秒考えるレオ。 ………。 恥ずかしくなってきた。 なぜ電話でこんなことを言ってしまったんだ。 『あの…そろそろお金もかかるし切ろうかな…』 『かけ直してもいいわよこっちから』 『………う…』 半眼でニっと笑う友人。 レオはいたたまれない気持ちで、体をちぢこませた。 『レオ子。 まあ…その察するわって部分もあるわよ。 だって急にあんなイケメン二人に囲まれてさ…しかもなんかモテ期到来みたいになって。 ああ…レオ子曰く異文化だからしかたない…だけどね。 それで…冷たかったり元に戻ったりし始めたから…気になるって…。 そりゃ…レオ子みたいなタイプはそういうことされると気になるわよね。 だからと言ってじゃあどっちかと付き合うわ…とは…なりにくいわよね。 もう私なら両方を弄ぶだけ弄んでから経済的にいい方を選ぶわ』 開いた口が塞がらないレオを置いて 友人はまだ続ける。 『でもレオ子にはそんなの無理だろうし…というかね…。 異文化だからって割り切るのをやめちゃえばすぐ気付けると思うのよねレオ子は』 『なにを…でしょうか』 ついつい敬語で聞く。 何かとてつもなく恐ろしいことが返ってきそうで、本当なら今すぐ通信を切りたい。 自分からかけておいてなんだが… 『昔から一途すぎるのよレオ子。 ミシェーラのためにそっちへ行ったんだからって…そういう気持ちまで無視しようとしなくていいの。 自分の気持ち無視しようとしてイロイロいっしょくたにして…大切な仲間と…異性として好き…を同じに考えようとしてるんだわ」 ズガっと 槍か何かで攻撃を受けたかと思った。 もう立ち上がる気力もわいてこない。 『あの…つまり…僕…す…上司か先輩のどっちかを…その…好きってこと?それで…あの…触ってくれなくて寂しいっていう…そういうこと…を君に相談してると…?』 震えと悪寒が止まらない。 『ぴんぽーん。 やっとわかった?わかったならその…異文化交流やめて、きちんと二人と向き合って心臓に聞いてみなさいな。 んでもって気持ちを伝えること。 これで私も安心だわ」 何がだ…。 レオは汗でびっしょりになりながら、口をパクパクとさせた。 あ そういえば、彼女がこっちへ来た目的は、レオを守ってくれる彼氏…ないしはパシリをつくれということだったか それで…気持ちを伝えろと 『いやどう考えてもふられるだろ。 二人とも超恋人いるし』 言ったとたん頭の中で何かドス黒いものが生まれかけて 自分で自分の頬を叩いた。 『ちょっとレオ子。 自分で自分の気持ちキャンセルすんのやめなさいって…てかふられるわけないじゃないバカなの?昔からレオ子はそういうことに鈍すぎて…逆に相手が可哀想で見てられないってミシェーラも言ってたわよ…聞いてるの?』 ハっとなって、画面を見直す。 何か今一瞬意識が飛んだ。 『ごめん聞いてなかった』 素直に謝ると、友達はガクっと下を向いた。 『あの…その…僕がどっちか好きってのは…そうかもしれないかもしれないかもだけどさ』 『意地っ張りね』 『だとしても…そういうのほんと今はいらないから。 気付きたくない』 一途すぎると言ってくれたが そんなことはない…とレオは思った。 ここへ来た目的。 ミシェーラの目を治すため。 なのに 毎日が楽しい。 辛いときもあるけれど…みんなといるのが本当に楽しくて 夜になると、戒めのように悪夢を見ることがある。 けっして忘れているわけじゃない。 常に考えていなきゃいけないとも思っていないが…。 恋なんて 『ミシェーラは恋人が出来ても見ることも出来ないのに…僕…そんなこと考えられない』 切実な気持ちで言うと、友人は眉間に皺をよせ、何か言おうとして…やめてしまった。 自分のことを想っていろいろいってくれているのはわかっている。 でも出来ないものは出来ない。 『…わかったわ。 もういろいろ言うのはやめる、でも相談なら聞くからいつでも電話してくるのよ。 というか電話するからね』 優しい笑顔の友人にホっとしながら レオは頷いた。 少しだけ気分が軽くなった気もする…が、明日から二人にどんな顔をして会えばいいか… 気をひきしめる必要がある。 そうだレオ子。 その二人のことでお願いがあるの思い出したんだけど』 『ん?何?』 お願い。 突然なんだろう。 しかも二人のこと? レオが聞き返すと、友人は真剣な顔で手を合わしてきた。 『この間ね。 私嘘ついたの。 レオ子を探して二人が来たとき…英語でイロイロいったやつ』 『ああ…自分は友人で、一緒に出かけてただけですって言ってくれたんじゃなかったの?』 『いやーっちょっとイタズラ心でね。 レオ子が二人のことマジでキモイセクハラおやじだって悪口言ってましたよって…言っちゃったの。 それで…態度がおかしいのかも…ね』 開いた口が塞がらないパートツー。 『なんで…そんな…じゃあ僕がこの悩みを打ち明けてるとき…君…自分のせいかもってわかってた?』 『もしかしたら…よ。 というか半分は本当じゃない…悪口』 悪口…までは言ってないが、確かに二人のことは言った。 だからってなんでそんな…いや…彼女はこういうやつだった。 『っちょ…じゃあどうすれば…僕この言語能力だし…弁解できないぞ。 しかもその…好き…かもしれないのにさ。 いや考えないけど!』 首をブンブン振って正気に戻るレオ。 『弁解なら私がちゃんと英文にして、カタカナも打ってあげるから。 それを覚えて読むくらいできるでしょ?あ…今言うから録音して。 発音も教えてあげるから、一言くらいならいけるでしょう』 『なんで君が撒いた種なのに偉そうなんだ。 わかった。 ちゃんと誤解が解けるような文章にしてくれよ』 『はいはい』 なぜか面倒そうに返事をされ、レオはぶーたれながらも 友人の言う英文を録音し メールでカタカナの文章も貰い。 頑張って覚えた。 [newpage] そして次の日。 丁度お昼時 それぞれ買い出しや用事で出かけていき グッドなのかバッドなのかタイミングよく二人そろっていたので レオは 「すてぃーぶんさん。 ざっぷさんおはなし あるです よい です?」 二人をソファへ呼んで正面に座った。 「どうした?」 「なんだよ」 不機嫌そうだ。 当たり前か。 レオはドキドキしそうになる心臓を叱咤して、覚えた英文を読み上げた。 「実は…恋人がいるなんてウソにゃんです。 二人にきゃわいい彼女がいるの…見…たことあるから…ボク…見栄はっちょったんです。 ごめなさい。 えとえと…だ…から…誰かいい人がいたら紹介してくだそいね」 うおおお言えた。 かなり友達の発音再現できたはず。 これで通じただろう。 長い文章だったよまったく。 レオはホっと胸をなで下ろし 二人を見た。 ん…? なか顔色悪い。 どうした? まさか…また友達にいっぱい食わされ…いや…さすがにそんなことしないよな。 真面目な顔してたし。 沈黙が続くので、レオはアタフタしながら二人を待ち 「ち…違うんだ…というか…そうか…恋人いないのか…よかった…でも…ああ…誤解だレオ…いや誤解じゃないことはしているが…なんだ…俺は最低なのか…最低だ…そこを考えていなかった。 そうか…そうなるか…誰か紹介…するわけないだろ…でもそうなるか…」 レオ以上につまりまくりでしゃべるスティーブン。 何をいっているのかまったくわからないが たぶん怒ってはいない…はず。 「あれは愛人だ!…ただやってるだけの………ん?……っつーか何てめえくだらねえ嘘ついてんだよ世界終わったかと思ったじゃねーか……ん?…あれ…嬉しいようななんかいたたまれねえっつーか…俺が悪いのか?俺が…悪い…っわけねーだろ!紹介なんてしねえっつーの!一生しねえわ!てめえに他所の男なんて来世もねーしその次もねーからな!」 首を傾げたり怒鳴ったりするザップ。 ときどきニヤついてもいるから…通常運転に戻ったような気もする。 自分は一体…どいういう風に誤解を解いたのだろうか。 意味…聞いとけばよかった。 友人がやったことだから友人が誤解を解けばいいじゃないか…とズボラしたのが悪かったのか? レオは二人をジーっと見て 見… 浮かんできそうになる感情を抑え込むように心臓を抑えて下を向いた。 アレ なんか… これは…やっぱり…気付きそう…いらないものに… 考えるな考えるな考えるな…今までと同じように同じように 異文化交流… フっと影が二つ。 顔を上げるレオ。 「どうしたレオ。 調子が悪いのか?」 「んだよ…どっか痛いのか?」 心配そうな二つの顔。 『びゃっ!!』 レオはソファから飛び跳ね 背もたれで尻を打ち グルっ! 視界反転。 大股開きでソファの後ろに頭から落ち ゴワンっ!! 強打して…視界がスーっと暗くなっていった。 「レオっ!」 聞こえたのはどっちの声か…。 たぶん とっくに好きだった。 ああ…気付きたくなかったのに…これからどうやってごまかして行けばいいんだ。 レオの思考は、かなたへと飛んでいった。

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アイラブユー (西野カナの曲)

アイラブユー だ も んで

11月29日(月) なんでもかんでもジャムにする 今年もあと一ヵ月かあ。 三ヵ月くらいまえが正月だったような気がするんだけどなあ。 早いなあ。 きっと来年こそ年賀状がゼロになるな。 今の住所、誰にも教えてないもんな。 いや、教えてても教えてなくても来な いんだけどさ(笑)。 あ、太一からは届くだろう。 あいつはワシの実家にいつも「直は今どこに住 んでるんですか?」と訊いて、ワシがどこに越してもどこにいても年賀状を毎 年、送ってくれる。 ワシを捕獲してくれる。 まあ、家が隣だしね。 年賀状だけじゃなくて、野菜やらアケビのジャムやら、太一はいろいろと送 ってくれる。 今日は柿のジャムが届いた。 しかし、あいつは、なんでもかんでもジャムにする男だ。 太一の中では、私は幼稚園、小学校、中学校と一緒だったあの頃の私のまま なんだろうか。 今、ワシがSM嬢になってると知ったらどう思うだろう。 たぶん、私には死ぬまで毎年一枚は必ず年賀状が届くような気がする。 太一が出してくれなくなったら、もう誰からも届かんだろ。 私も誰にも出さ ねえし。 自分で大バカだと思うけど、ブラウン管の向こうの相手にワシは最近惚れて しまった。 本気で惚れてしまった。 しかも相手はAV女優。 彼女の名は樹まり子。 その昔、AVの女王と呼ばれていた彼女に、今、ワシは恋してしまったよ。 時代おくれの恋と笑いたければ笑え。 (時代おくれの女になりたいby河島英 五。 ちょっと違うか) 今日だって「ぬるぬるアイラブユーOK」を見ながらオナニーした。 彼女が男優にチンコを挿入されてる場面で一緒にバイブを入れた。 何やって んだろ。 まさに、まり子にぬるぬるアイラブユーなワシ(バカ)。 彼女のCS放送はすべてチェックしてるし、彼女の中古AVもこつこつと収 集している。 まったく一途な惚れっぷりである。 自分で自分がいじらしい。 彼女の全盛期に彼女と出会わなくてよかった。 そんな出会い方をしたら、ワシはストーカーになってたかもしれない。 胸ん中、モヤモヤしてたまらん。

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天童よしみ / アイ・ラブ・ユーより、ありがとうの歌詞と動画

アイラブユー だ も んで

長い足を組み替える。 ため息をつく。 デスクに肘をつき、再びため息。 「こひー いれる すてぃーぶんさん まつ です」 パタパタと給湯室へ入って行く後姿を見て、息と一緒に出したはずの重い気持ちが再びせり上がってくる。 どうにかしてレオを彼氏と別れさせなければ。 ありとあらゆる問題をデスクに山積みにしたまま、スティーブンは頭を悩ませた。 ピラっと一枚紙を取り、報告書に目を通す。 〈なんのために どんなことをしているのか これによって起こりうる問題は何か 今後の対策は〉 汚い字で書かれている。 恐らくザップのものだろう。 舌打ちをして、トントン ペンで机を鳴らした。 〈なんのために〉 レオの彼氏。 恐らくクズ野郎だ。 ザップと同等ぐらいのクズかもしれない。 なにせ、レオをあんな…襲ってくださいと言わんばかりの恰好で街へ繰り出させる男だ。 〈どんなことをすればいい〉 別れさせる。 「消すか…」 フと一番楽な選択肢が浮かんできて なぜか昼間に見た料理番組の曲が頭の中で流れ始めた。 1まず初めにレオの彼氏を消す。 跡形もなく。 2彼から連絡が来なくなり、レオはふられた形になる。 3優しいレオは泣くかもしれないが、自分が傍にいれば特に問題ない。 できあがり…。 バリっ! スティーブンは汚い報告書を半分ほど破いた。 「ないないない…俺は危ないやつか…アホなのか…」 一人のり突っ込みしてしまったことにもズンと落ち込む。 「これは書き直させるか」 ペっとザップの報告書を横へのけ、パソコンのデータに目を通す。 そもそもなんのため、あたりから間違っている。 レオの彼氏がクズなんてただの予測にすぎない。 彼女は人を見る目はあると思う。 しかしあの言語能力で… 「まさか。 相手は日本語をしゃべれるやつか…」 だったら勝ち目はあるのか。 いやちょっとまて 勝ち目ってなんだ。 なぜ勝つ必要がある。 相手はテロリストか?麻薬の密売人か?BBか? 違う。 ただのレオの彼… ボキっ ペンが折れた。 なんのため レオに彼氏がいたら困る。 なぜ困る。 腹が立つからだ。 なぜ ペット レオの文字がどうにも頭の中で邪魔をする。 スター ペット スター どっちだ。 どっちでも納得いかない。 じゃあなにでいたい。 彼女にとって自分は何でありたい? 彼氏を敵と思うということは彼氏になりたいのか? レオを彼女に…恋人にしたい? スティーブンは今まで抱いた女性や、デートをした女性たちを思い浮かべた。 アレと同じに… 恋人。 そういう定義に当てはめていた存在はたくさんいるが…どれもピンとこない。 それならまだペットのほうが幾分かましにさえ思える。 なにでいたいか…わからない。 なにで…いたい…か コト いつの間にか机に頬を付けていたスティーブンの目の前に、カップが置かれる。 目線を上げると ニッコリ笑顔のレオと目が合った。 「おまたせ いたしますた どーぞ」 フっと自然と息が漏れ、下から手を伸ばしてレオの柔らかい髪に指を絡ませるスティーブン。 「居たい…傍に…一番傍…どんなかたちでもいい…なんでもいい…誰よりも傍に居たい…レオの傍に…一生…」 彼女を前にした途端 何にもあてはめられない気持ちがあふれ出た。 これじゃまるで神にでも懇願しているようだ…。 「すてぃーぶんさん。 もー いちど おねげします そば いたい?」 案の定首を傾げるレオ。 髪を触る手を、スルっと首元へ持っていくと…一瞬目を見開き しかし手を払いのけもしない、恥ずかしがりもしない。 欲望を先行させすぎた結果…彼女は慣れてしまった。 これならいつまでも彼女の傍にいられる。 そう考えていたような…それとも何も考えずやってしまったような…。 でも違う もう無理かもしれない。 そんな第三者が割りは入って来た途端すべてが崩れ去った。 レオが手を払いのけなくても 自分自身が制御できているから成り立っている関係だった。 もう…無理だ 恋人にしてきたように…いや…それだけじゃもうすまないくらいのことをレオに… 何かわからないものをぶつけて 壊すかもしれない。 それは嫌だ。 絶対ない。 ありえない。 だったらレオは彼氏と幸せになればいい。 ギリっ 「っ…すてぃーぶんさん! ないない! つめ いたし!」 ハっとなって立ち上がると、レオの首にひっかき傷ができていた。 「すまないっ…レオ…」 肩を落として謝ると、レオは首を抑え コクっと頷いた。 「わざと ちがう でした こっち こそ すむませぬ かんちぎゃい…。 えと…まえから…いう べく こと です。 すてぃーぶんさん と ざっぷさん いたずら おおい けもの ガウガウ みたい ぼく しんぞー ふぜん なる こまる へらす」 ガウガウ言いながら手をネコのように丸め、両腕を上げるレオ。 胸をとんとんと叩いて、眉をひそめ、ムっと頬を膨らませるレオ。 何が言いたいのかイマイチわからないが スティーブンは長い長い溜息をつきながら、レオの頭をナデナデした。 「なんでこんな可愛いものを他の奴にやらなきゃいけないんだ。 それこそアホらしい」 ナデナデし続けるスティーブン。 撫でるくらいいいだろう…と心の中で言い分けを繰り返す。 「わざと!すてぃーぶんさん!こりは わざと! いま こまる いうた ぼく!」 レオが小さく抵抗してきたので、腕を引っ張ってレオの頭を胸に押し付けてまた撫ぜ続ける。 「ザップの名前と俺の名前を並べて出すなよレオ…今ほんとうに危なかった…可愛さがなければ頭じゃないところに手を伸ばしてたぞ…聞いてるか?」 『ああ…ダメだなコレまったく通じない。 友達に聞いたら外国人でもそんなに触らせるのは変だって言うから。 この人たち僕のこと虐めて楽しんでるのか?もしかしてコミュニケーションじゃなく… いやでもなあザップさんはともかくスティーブンさんにそんな趣味はないだろうし、ちゃんとしてる人だもんな…』 「なんだって?」 レオが長い日本語の独り言をブツブツと言い 気になって問いかけたが、無視されてしまった。 独り言中はたまにあることだが、結構つらい。 スティーブンはレオの頭から手を離して、ストンっと椅子に座りなおした。 目線が近くなり、髪が乱れたレオが首を傾げる。 「レオ」 名前を呼んで、じーっと真顔で見つめると、レオは目線を右へ左へやり… 唇を噛みしめて見つめ返してくる。 必死にこっちの言わんとしていることを探ろうとしている目だ。 「すてぃーぶんさん?なにです?」 一生懸命。 妹のため。 言葉もわからないような国に一人で来た…ただの女の子。 誰にでも優しく面倒見がいい。 弱くて…誰よりも強い気持ちを持った ただの… 特別な女の子。 スティーブンはニッコリと笑い つられたようにヘラリと笑うレオの左手薬指を掴む。 「うーん…取れない呪いがかかった指輪でもはめとけば誰もよってこないか…」 思考がふりだしに戻りかけて スティーブンは額を抑えて足元を見た。 「いやいやない…危ない…危ないやつすぎる…そもそもがおかしいだろなんで指…」 言った途端 どんどん繋がっていく世の中の常識と自らの思考回路。 恋人ではおさまらない 一生傍にいたい 指を呪いたいほど なにで? 指輪で…… 「すてぃーぶんさん。 みみ あかいろ ねつ? おちかれしゃまです? おやすむ?」 上から落ちてくるレオの声に情けなさが膨れ上がり スティーブンは ガンっ! 『わ!!』 机に頭を打ち付けた。 『なにやってるんすか!眠気覚ましなら他にも方法あるでしょうよ!』 騒ぎながらスティーブンの額をさするレオ。 ああ 頼むから彼氏とは別れてくれレオナルド。 お願いだ。 そうすれば自分は…こんなしょうもない世界の約束事に手を出さなくても 勝手に君の一番近くにいることが出来るんだ。 周りを認めさせるためだけのバカみたいな証なんて本来必要ない。 ただ一番傍に居たいだけで…なんでこんな…アホな結末に辿り着く。 世の女性を敵にまわしそうなことを考えるスティーブン。 そんなことはつゆ知らず、レオはスティーブンの額に顔を近づけ 『腫れてはいないか…血も出てないよな』 鼻先にレオの息がかかる。 ああ…ダメだ…。 このままではレオの世界に引っ張られていってしまう。 自分のペースでしか女性を相手にしたことはないのに、言葉が通じないからかすべてが後手後手に回ってしまって 目を離せない。 手も離せない。 身動きが出来ない。 ヘタすれば息も出来ないくらいにレオの一挙一動に揺り動かされている自分がいる。 「レオ。 離れてくれ。 キスしそうだ……」 首を傾げるレオ。 「君は彼氏がいるんだろ?なのに君が可愛す…無防備すぎて頭がおかしくなってきた。 もう俺が悪かったから…不用意に触らないから…君もそうしてくれないか」 レオは至近距離のままスティーブンの目を見て… 言われた言葉を頭の中で訳しているのか、眉間に皺をよせている。 スティーブンはため息を飲み込み レオの鼻先に ぺふっ 高い鼻を触れさせた。 『おおおわっ!』 真っ赤になって飛びのくレオ。 鼻を手で押さえ、わなわな震えている。 「通じたか?離れないととどうなるか…わかったか?…君は…好きなやつがいるんだろ」 体の芯が冷たくなっていく。 辛いのか…寂しいのか…なんだかわからない。 「幸せになれ…レオ」 泡が弾けるほどの小さな声で言い、無理やり書類に目を戻すスティーブン。 結局はこれが一番いい。 かなり危ないところまで思考がぶっ飛んだが 自分にはやるべきこともあるし、レオにも何よりも優先すべきことがある。 それに…愛する者がいる普通の少女にぶつける気持ちとしては 自分のは適切ではない。 歪みまくっている。 折れたペンをゴミ箱へほり、新しいペンを引き出しから出すと 『だ…なん…!キ…スしようとし…ではないよなっ…ないない!…あ…あれか!いつものあれ…いやでも友達が…でも…』 レオの独り言が耳に入った。 「レオ…今日はもうあがれ…」 『あああ…もう面倒くさいな。 …でも休んでほしい…』 聞いてない。 また独り言をいい脱力するレオ。 ほっとけば帰るか。 スティーブンはペラっと一枚書類を抜き取って手元へ置き… 瞬間。 「はぁ…すてぃーぶんさん。 おやすむなさい」 小さな手で顎をグイっと持ち上げられ 「っ!?」 スティーブンの頬に、触れるだけのキスをするレオ。 ミシっ…バキっ ペンが手の中で折れた。 「…っ…レ…オ………」 自ら仕込んだこと…のはずが 固まるスティーブン。 キスされたくなくば離れろ。 というアクションだったはずなのに キスされた。 心臓が痛い。 頬が熱い。 どうすれば なんで 違う ダメだろ 出した答えが… ガラガラと崩れ去って行く。 そんな動揺するスティーブンを置いて ソファへと戻ったレオは パンパンっ! 自らの太ももを豪快に叩いて言った。 「こい すてぃーぶんさん ねるです」 半眼で不機嫌そうな顔。 クソっ! 愛おしすぎて辛い! 爆発しろ!彼氏! 今すぐこの思考回路ごと爆発してなくなれ! スティーブンは死ぬほど恰好悪いことを考えながら 立ち上がった。 [newpage] 『ちょっ!その人バイト先の人ですよ!ザップさん何いきなり斬ろうとしてんですか!バカなんですか!!』 レオと歩いていると、見知らぬ男が話しかけてきた から ザップはとりあえず 斬りつけた。 「ひいいい!」 ギリギリでレオが間に入り、刃を止める。 「なんだ彼氏じゃねーのか」 悲鳴を上げながら逃げていった男の後ろ姿を見て、肩を落とすザップ。 バシっ! 日本語で怒鳴りながら ザップの足を蹴っ飛ばすレオ。 まったく痛くはないが 腹が立つ。 「だから何度も彼氏に会わせろっつてんだろ?わかんねーかな」 「なに このいぜん から かれ あわせろ だれ? わからん」 レオはプンプン怒りながら答える。 通じないとは不便なことだ。 今更ながら思い、ザップは頭をかいた。 レオに恋人がいる。 そう聞いて 殺そう。 本能的にそういうところに辿り着いた。 なぜか… 簡単だ。 そんなやつはこの世界に必要ない。 レオの隣を歩くのも…レオに触れるのも…自分だけでいい…とかそんなんじゃない。 それは違う。 レオが笑顔でいるなら…いい。 我慢する。 血反吐はいても…我慢する。 だが 恋人。 この肩書きはよくない。 泣かれる。 頬を思いっきり殴られる。 刺される。 自分が経験してきたことだ。 恋や愛が絡むと人と人の関係はいっきに危険なものへ変わる。 そんなものをレオの周りに存在させるなんてありえない。 レオを消すかもしれないくせに 自分より弱い男など …死ねばいい。 殺気を出しながらレオを見ると 青い瞳をさらけ出して、怯えた顔をされた。 ああ 触れたい。 腕の中に閉じ込めて誰も見えないようにしてやりたい。 でもそんなことをしたら自分も彼女を見ることができなくなる。 だからしない。 なのに触れたい。 でもそうやって…すべての欲求に負けて噛みついた日 彼女は逃げ出して彼氏のところへ行ったのだ。 悔しい苦しい…。 あんな恰好までして…。 「ざっぷさん…けった いたいかった?そんなに?」 黙りつづけていると、何か勘違いしたレオがしゃがんで脛を撫でてきた。 こそばゆい。 脛だけじゃない。 ずっとずっとこそばゆいのだ。 レオに抱き付いてランブレッタに乗っているときも レオのベッドで眠るときも。 撫でられるようにこそばゆい想いが ザップの衝動に細い鎖をかける。 これがなければ 彼女を泣かせるのは自分かもしれない。 彼女をこの世から消してしまうのは…自分なのかもしれない…。 だからこの気持ちをなんとかつなげておかなくてはいけないのだ。 弾け飛ばないように…少しづつ発散して 彼女を守らなければいけない。 世界中の奴らから…彼氏から…自分から…氷から…。 ザップはしゃがんでいるレオの腕を掴んで立たせ 「怒ってねーよ」 目を細めて、レオの頭を撫でた。 「おこて ない? ぼくは まだ おこってる です」 プーっと頬を膨らませるレオ。 ああ…でも問題がある。 ザップは膨らんだ頬をプニプニつまみながら考えた。 レオの彼を殺したら レオはとても怒るだろう。 いや…怒るどころではないかもしれない。 嫌われる…だけじゃない。 悲しむ レオが 笑わなくなる。 本末転倒だ。 じゃあどうする。 殺す…消す。 記憶を…。 …ないな…レオに何が起こるかわからない。 俺にしとけばいいのにな。 フっと沸き上がる心の声。 どういうことだ。 ザップはレオの頬をグニグニと伸ばした。 『やめろっ!痛いって!ザップひゃん!!握力マジで強いなこの人!!いたたたたっ!蹴ってごめんなさい!』 いや…でも俺はレオを決して刺さない。 だから恋人にはならない。 レオを傷つけることはしない。 だから恋人にはなれない。 そうしないと…俺は俺を殺さなければいけない。 それでも俺にしとけばいいじゃねーか。 止まらない声。 「なあ。 俺にしろよ」 ポロっと発言までしていた。 頬を解放され、涙目のレオが肩を怒らせる 「なん こと です?」 なんのことってか なんの 俺にしろ 傍に置くなら 一番にするなら 死ぬまで一緒にいるなら 自分を選べ…。 おまえの意志で…選んでくれ。 でなきゃ意味がない。 なんだかよくわからなくなってきた、矛盾だらけだ。 問題もすり替わっている気がする。 そもそも 「なんで俺がおまえに頼まなきゃいけねーんだよ」 モジャっとした陰毛頭をワシ掴みにすると、レオは目を細めて見返してきた。 なんだこの人 という顔をしている。 どうせ傷つけるなら自分が… 耐えられる自信はなくても…それでも…他の誰かにやられるくらいなら… 守りたいのに。 ヒーローでいたいのに。 所詮はペットということか。 願うしかできないなんて…ソニックと同じポジションでいるしかないのか。 ここから脱却する素晴らしい方法はないのか。 レオに恋人を作らせず、自分を一番に…傍に置く…それも永遠に…。 何かあったはずだ。 何か…。 考えてもまったく思い出せないのに、それが自分には合わないことだというのはわかる。 だいたい恋人を作らせずって、すでにいるのに。 レオが選んだ相手が。 俺以外の誰かが…。 その誰かがいるから こいつは今笑ってるのかもしれない。 俺の傍でヘラヘラ出来るのかもしれない。 このままでいるのがコイツにとっては一番いい。 それもわかる。 殺してやりたいと思っているのは自分だけ 勝手に彼女のためだとか危険だからとか考えているのも自分だけ。 こんなにも何もかもが一方通行だなんて…何か違う気もするが、いわゆる片思いをしてるなんて… 愛人が聞いたら大笑いするか信じないかのどちらかだろう。 それが自分。 今までの自分。 失くす…レオの前にいると…いろんなものを… 手に入れたくて失くしている。 この鎖もいつか失くしそうだ…切れて落ちて失くなる…。 いや…もう切れかけている…か それとも殺すなんて考えて、近付いてきた男に切りかかった時点で もう切れたのか? 今回は立ちはだかる彼女を前に寸止めできたが 次は… 力関係が圧倒的な戦いだ。 自分の想いが強すぎて…無防備な彼女をいつか…。 ヒーローが聞いてあきれる。 「なあレオ。 お前俺のことどう思う?なんだと思ってる?」 ザップは再び聞いてみた。 彼女の前で、彼女に害のないものを切ろうとした自分を…なんだと思うか。 少なくとももうヒーローではないだろう。 「え…と…ちょい まつ」 レオは携帯を出して調べ始めた。 ザップが黙って待つ姿勢になると、何か察したようで 電子辞書まで開く。 怒ったり怯えたりしているくせに きちんと答えようとしてくれている。 人に対して真面目で一生懸命…こっちが不真面目に対応しまくっても… 必ず最後は向き合ってくれる。 「俺 どう 思う…ふんふん」 『俺を…なに…どう思うか?…ん?なんだこれあってる?なんかこないだもこんなこと聞かれたような…でも本人だし違うか。 連想じゃないよな。 他人からどう思われてるか聞きたいって…何か不安ってこと?彼女か友達と喧嘩したとかかな。 さっきからイラついてるし。 てかこの人…彼女いっぱいいるけど友達いるのか?…いなくないか?…僕に相談するくらいだし…』 ブツブツ独り言を言いつつ 顔を上げるレオ。 出たか。 一体なんだ。 俺はお前にとってなんだ。 どの場所にいる存在だ?どこに入ればいい?ずっとずっと遠く? いっそのこと手の届かない…目にも映らない場所にいればいいか? 自分ではない誰かが現れて勝手に脳内でしゃべっているようだった。 女に対してネガティブになることなんて初めてだ。 頭痛がしてくる。 やっぱり聞かなければよかった。 「レオ…やっぱ今の質問な…」 「ざっぷさん いつも いっしょ ぼくと そばいる なかよし だから げんきを…」 グワっ! 「おお!!?」 ザップはレオを抱き上げた。 いつも一緒 確かに今そう言った。 これはたぶんちゃんと通じてない。 でもそう言った。 レオの言葉が鼓膜を突き破って脳内のいろんなザップを攻撃して倒した。 一発KOされていた。 殺したくない。 傷つけたくもない。 大切にしてやりたい。 その思いは…ただ彼氏がいる…レオに一番の存在がいるというだけで 刃に変わる脆いものなのか。 新しいザップが脳内で問いかけてくる。 違うだろ。 耐えろ…耐え抜け…。 「ざっぷさんと ぼく いちばん とも…」 ギューっと抱きしめた。 最期まで聞かずに。 「いやおかしいだろ。 なんで俺がおまえのためにいろいろ譲歩しなきゃいけねーんだよ。 一番なんだとかてめぇビッチな発言しやがって…ああ…だめだ頭悪いこと考えてた。 ねえわ…マジでねえ…。 いや…俺も悪いがレオも悪いんだぞ」 腕の中でジタバタするレオ。 ああ…行かせたくない。 どこにも。 やはり自分を選べとか考えている。 クソっ レオの彼氏なんてこの世界から消え去れ そしてこんなチマチマしたことを考える脳みそなんて 細切れになって海の藻屑となれ! ザップはそうやって少し前に考えていたことをすべて忘れ去る方向で レオをそっと地面に降ろした。 [newpage] 二人がおかしい。 レオは事務所のソファで自作おにぎりを食べながら頭を捻った。 もともと自分の常識の中で、二人はおかしい人に分類されていたけど そこからさらにおかしくなった。 『なんか目も合わせてくれない日が続いたり…思い出したように張り付いて来たり…緩急つけてくる…』 おかげで レオは二人が気になって気になって…仕方がない。 そういうお国の人だから。 と割り切ろうとして頑張っていたのに 友人に電話してみようか。 お金かかるけど…相談を…。 レオはスクっと立ち上がり、目の前で食べているザップに声をかけてみた。 この間の事務所脱出事件以来、何も言わずに事務所を出ると 二人…スティーブンとザップが必ずついてきてしまうからだ。 「ざっぷさん。 ぼく ともだち でんわ こくさい そとでる」 「おお」 今日は目を合わせない日なのか、気のない返事が一つ。 少し寂しい。 レオは立ち上がってデスクへ行き 「くらうすさん、すてぃーぶんさん。 ぼく でんわ こくさい そとでる OKです?」 身振り手振りしながら言うと クラウスも身振り手振りでOKサインをしてきた。 大きな体でやるゼスチャーがなんだか可愛らしくて、レオはフっと笑う。 「今日はそのまま帰ってもいいぞレオ」 パソコンから顔を上げず、早口で言われた。 普段から聞く言葉なので、なんとなく上がってもいいということだとは思うが 寂しい…少しだけど。 いやいやなんか贅沢なこと考えているよ自分。 ただの日常会話に色をつけてくれとか考えてるなんて…。 でもな…毎日ああだったのが急になくなるって…嫌われるようなことしたかな。 だけど次の日になると戻ってたりもするし。 わけがわからない。 [newpage] 『で?レオ子はどっちがいいのよ』 通信画面越しに友達が言った。 グチグチした悩み事を黙って聞いてくれていると思ったら なんだか見当違いな返答だ。 『どっちって?何が?僕の話聞いてた?』 ムっとしながら言うと、友達はバカにする感じのため息をはいた。 『べったりしてほしいのか、普通にサラっとした付き合いで居てほしいのか、どっちがいいの?って聞いたの』 『……え。 どういうこと…』 『だってそういう相談に聞こえたけど?』 言われて…数秒考えるレオ。 ………。 恥ずかしくなってきた。 なぜ電話でこんなことを言ってしまったんだ。 『あの…そろそろお金もかかるし切ろうかな…』 『かけ直してもいいわよこっちから』 『………う…』 半眼でニっと笑う友人。 レオはいたたまれない気持ちで、体をちぢこませた。 『レオ子。 まあ…その察するわって部分もあるわよ。 だって急にあんなイケメン二人に囲まれてさ…しかもなんかモテ期到来みたいになって。 ああ…レオ子曰く異文化だからしかたない…だけどね。 それで…冷たかったり元に戻ったりし始めたから…気になるって…。 そりゃ…レオ子みたいなタイプはそういうことされると気になるわよね。 だからと言ってじゃあどっちかと付き合うわ…とは…なりにくいわよね。 もう私なら両方を弄ぶだけ弄んでから経済的にいい方を選ぶわ』 開いた口が塞がらないレオを置いて 友人はまだ続ける。 『でもレオ子にはそんなの無理だろうし…というかね…。 異文化だからって割り切るのをやめちゃえばすぐ気付けると思うのよねレオ子は』 『なにを…でしょうか』 ついつい敬語で聞く。 何かとてつもなく恐ろしいことが返ってきそうで、本当なら今すぐ通信を切りたい。 自分からかけておいてなんだが… 『昔から一途すぎるのよレオ子。 ミシェーラのためにそっちへ行ったんだからって…そういう気持ちまで無視しようとしなくていいの。 自分の気持ち無視しようとしてイロイロいっしょくたにして…大切な仲間と…異性として好き…を同じに考えようとしてるんだわ」 ズガっと 槍か何かで攻撃を受けたかと思った。 もう立ち上がる気力もわいてこない。 『あの…つまり…僕…す…上司か先輩のどっちかを…その…好きってこと?それで…あの…触ってくれなくて寂しいっていう…そういうこと…を君に相談してると…?』 震えと悪寒が止まらない。 『ぴんぽーん。 やっとわかった?わかったならその…異文化交流やめて、きちんと二人と向き合って心臓に聞いてみなさいな。 んでもって気持ちを伝えること。 これで私も安心だわ」 何がだ…。 レオは汗でびっしょりになりながら、口をパクパクとさせた。 あ そういえば、彼女がこっちへ来た目的は、レオを守ってくれる彼氏…ないしはパシリをつくれということだったか それで…気持ちを伝えろと 『いやどう考えてもふられるだろ。 二人とも超恋人いるし』 言ったとたん頭の中で何かドス黒いものが生まれかけて 自分で自分の頬を叩いた。 『ちょっとレオ子。 自分で自分の気持ちキャンセルすんのやめなさいって…てかふられるわけないじゃないバカなの?昔からレオ子はそういうことに鈍すぎて…逆に相手が可哀想で見てられないってミシェーラも言ってたわよ…聞いてるの?』 ハっとなって、画面を見直す。 何か今一瞬意識が飛んだ。 『ごめん聞いてなかった』 素直に謝ると、友達はガクっと下を向いた。 『あの…その…僕がどっちか好きってのは…そうかもしれないかもしれないかもだけどさ』 『意地っ張りね』 『だとしても…そういうのほんと今はいらないから。 気付きたくない』 一途すぎると言ってくれたが そんなことはない…とレオは思った。 ここへ来た目的。 ミシェーラの目を治すため。 なのに 毎日が楽しい。 辛いときもあるけれど…みんなといるのが本当に楽しくて 夜になると、戒めのように悪夢を見ることがある。 けっして忘れているわけじゃない。 常に考えていなきゃいけないとも思っていないが…。 恋なんて 『ミシェーラは恋人が出来ても見ることも出来ないのに…僕…そんなこと考えられない』 切実な気持ちで言うと、友人は眉間に皺をよせ、何か言おうとして…やめてしまった。 自分のことを想っていろいろいってくれているのはわかっている。 でも出来ないものは出来ない。 『…わかったわ。 もういろいろ言うのはやめる、でも相談なら聞くからいつでも電話してくるのよ。 というか電話するからね』 優しい笑顔の友人にホっとしながら レオは頷いた。 少しだけ気分が軽くなった気もする…が、明日から二人にどんな顔をして会えばいいか… 気をひきしめる必要がある。 そうだレオ子。 その二人のことでお願いがあるの思い出したんだけど』 『ん?何?』 お願い。 突然なんだろう。 しかも二人のこと? レオが聞き返すと、友人は真剣な顔で手を合わしてきた。 『この間ね。 私嘘ついたの。 レオ子を探して二人が来たとき…英語でイロイロいったやつ』 『ああ…自分は友人で、一緒に出かけてただけですって言ってくれたんじゃなかったの?』 『いやーっちょっとイタズラ心でね。 レオ子が二人のことマジでキモイセクハラおやじだって悪口言ってましたよって…言っちゃったの。 それで…態度がおかしいのかも…ね』 開いた口が塞がらないパートツー。 『なんで…そんな…じゃあ僕がこの悩みを打ち明けてるとき…君…自分のせいかもってわかってた?』 『もしかしたら…よ。 というか半分は本当じゃない…悪口』 悪口…までは言ってないが、確かに二人のことは言った。 だからってなんでそんな…いや…彼女はこういうやつだった。 『っちょ…じゃあどうすれば…僕この言語能力だし…弁解できないぞ。 しかもその…好き…かもしれないのにさ。 いや考えないけど!』 首をブンブン振って正気に戻るレオ。 『弁解なら私がちゃんと英文にして、カタカナも打ってあげるから。 それを覚えて読むくらいできるでしょ?あ…今言うから録音して。 発音も教えてあげるから、一言くらいならいけるでしょう』 『なんで君が撒いた種なのに偉そうなんだ。 わかった。 ちゃんと誤解が解けるような文章にしてくれよ』 『はいはい』 なぜか面倒そうに返事をされ、レオはぶーたれながらも 友人の言う英文を録音し メールでカタカナの文章も貰い。 頑張って覚えた。 [newpage] そして次の日。 丁度お昼時 それぞれ買い出しや用事で出かけていき グッドなのかバッドなのかタイミングよく二人そろっていたので レオは 「すてぃーぶんさん。 ざっぷさんおはなし あるです よい です?」 二人をソファへ呼んで正面に座った。 「どうした?」 「なんだよ」 不機嫌そうだ。 当たり前か。 レオはドキドキしそうになる心臓を叱咤して、覚えた英文を読み上げた。 「実は…恋人がいるなんてウソにゃんです。 二人にきゃわいい彼女がいるの…見…たことあるから…ボク…見栄はっちょったんです。 ごめなさい。 えとえと…だ…から…誰かいい人がいたら紹介してくだそいね」 うおおお言えた。 かなり友達の発音再現できたはず。 これで通じただろう。 長い文章だったよまったく。 レオはホっと胸をなで下ろし 二人を見た。 ん…? なか顔色悪い。 どうした? まさか…また友達にいっぱい食わされ…いや…さすがにそんなことしないよな。 真面目な顔してたし。 沈黙が続くので、レオはアタフタしながら二人を待ち 「ち…違うんだ…というか…そうか…恋人いないのか…よかった…でも…ああ…誤解だレオ…いや誤解じゃないことはしているが…なんだ…俺は最低なのか…最低だ…そこを考えていなかった。 そうか…そうなるか…誰か紹介…するわけないだろ…でもそうなるか…」 レオ以上につまりまくりでしゃべるスティーブン。 何をいっているのかまったくわからないが たぶん怒ってはいない…はず。 「あれは愛人だ!…ただやってるだけの………ん?……っつーか何てめえくだらねえ嘘ついてんだよ世界終わったかと思ったじゃねーか……ん?…あれ…嬉しいようななんかいたたまれねえっつーか…俺が悪いのか?俺が…悪い…っわけねーだろ!紹介なんてしねえっつーの!一生しねえわ!てめえに他所の男なんて来世もねーしその次もねーからな!」 首を傾げたり怒鳴ったりするザップ。 ときどきニヤついてもいるから…通常運転に戻ったような気もする。 自分は一体…どいういう風に誤解を解いたのだろうか。 意味…聞いとけばよかった。 友人がやったことだから友人が誤解を解けばいいじゃないか…とズボラしたのが悪かったのか? レオは二人をジーっと見て 見… 浮かんできそうになる感情を抑え込むように心臓を抑えて下を向いた。 アレ なんか… これは…やっぱり…気付きそう…いらないものに… 考えるな考えるな考えるな…今までと同じように同じように 異文化交流… フっと影が二つ。 顔を上げるレオ。 「どうしたレオ。 調子が悪いのか?」 「んだよ…どっか痛いのか?」 心配そうな二つの顔。 『びゃっ!!』 レオはソファから飛び跳ね 背もたれで尻を打ち グルっ! 視界反転。 大股開きでソファの後ろに頭から落ち ゴワンっ!! 強打して…視界がスーっと暗くなっていった。 「レオっ!」 聞こえたのはどっちの声か…。 たぶん とっくに好きだった。 ああ…気付きたくなかったのに…これからどうやってごまかして行けばいいんだ。 レオの思考は、かなたへと飛んでいった。

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